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┏━┫ ☆テキスト系創作メールマガジン 文芸同人 主婦と創作☆ ┣━┓
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┗━━┛          2006年02月11日号 通巻 166号上巻 ┗━━┛
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 初めましてのかたは、初めまして。そうでない方は、お待たせ致しました。
 自称「文芸同人誌」主婦と創作の発行人・銀凰恵です。

 今週号は分量が多いので上下巻に分割してお送り致します。
 で、こちらは上巻となります。

 では今週の作品をどうぞ。
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◇本日の上巻目次…
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 ◆連載小説…くまの 王子的日常 第3回
 ◆連載小説…流河 晶 自由への白き翼 第8回
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◇王子的日常 第三回                   作:くまの
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◆3◆
「『かの子ちゃん、本当はずっと前から君のことが好きだったんだよ』」
「要さんと同じ顔でアホなことを言うな。コロスぞ」
 かの子は演技でなく顔を赤らめると、ご飯粒のついた割り箸を俺の目の前に
突き出した。右目から五センチと離れていない。
「……避けろよ、馬鹿王子」
 ため息と共に箸が下された。
「ふふ。『かの子ちゃんは怖いなぁ。でも、そういうところも愛の力があれば、
可憐に映るものだね』」
「…………悪かった、もうあんたの前で牛丼は食わん」
 心底げんなりした顔を見せてもらって、ようやく俺は胸がすっとする。
「そうしてくれるとありがたいよ。俺だって、今日一日ぐらいは君に責任転嫁
したいんだ」
「何であたしのせいなんだよ! こっちだって、被害者だろ?」
 どかんとテーブルを叩く。テーブルをひっくり返されなかっただけ、マシと
いうものだ。
「カノジョなら、相談されたら普通は止めるものだよ」
 かの子以外には見せる予定はないから、容赦なくにらみつけることができる。
へらへら笑っているばかりが役者じゃない。
「あっ、あれは相談っていうより決意表明だったんだって、何度言わせるんだ!
 第一、あたしみたいな女にホレた時点で、要さんにはそっちの気があったんだ!」
「なるほど、それは一理あるな」
 嫌味ではなく、俺はかの子の言葉に深く納得した。
 兄は昔から、男勝りな女の子ばかり好きになっていた。まさか、それが彼女
達の『カノジョ』になりたい願望の現れだったとは……。
 三年前の今日、江端要は夕食の席で「これから先の人生は女として生きる」
と宣言を家を出ていった。父は絶句し、母は貧血を起こして倒れた。俺はとい
えば、食べかけの牛丼のどんぶりを持ったまま、駅へと向かう兄さんを追いか
けていった。
 ――そして、あと一歩で兄さんを捕まえられるというときに、かの子に足止
めを食らってしまったのだ。文字通り、背後から回し蹴りを食らった。
「……あのときの腰の痛みは、まだ覚えているよ」
 牛丼を見るたびに、地面をのたうち回った記憶がよみがえる。その後、俺は
一週間近くまともに歩けなかったのだ。
「だから、そのお詫びに今、『カノジョ』役を引き受けてやってんだろ? 今
年に入ってから二度、刺されそうになったんだぞ」
「未だに兄さんのアドレスを教えてくれない人に、同情する気はないね。死ぬ
前に教えてくれると嬉しいよ」
 子供っぽいすね方をしているとわかっているが、この人を前にすると、どう
しても地が出てしまう。
「あのな、人生短いんだ。本人の好きなようにさせてやれよ。妹なら、三回目
の誕生日ぐらい祝ってやれって」
 かの子……君はなんて男前なんだ。
 いきなり、『カノジョ』から『女友達』へ、ポジションの転換を余儀なくさ
れた人の言葉とは思えないぞ。
 俺はまじまじと、かぐや姫もかくやの白い顔を見つめる。
「あんたもだ、《星の王子様》。もし、あたしのことが可哀想だと思って、男
装なんてふざけた真似をしてるんなら殴るぞ」
「ふふ、どうだろうね。確かに、きっかけは兄さんに対する面当てなんだけど……」
 俺は頬杖をついて、ほんの少し泣きそうな顔をしている幼馴染みに言ってやる。
「今は趣味だね」
 もしくは使命感だろうか? ほら、古今東西、お姫様は王子様が守ってあげ
るべき存在だと思うんだよ。
「……とことんまで物事を突き詰めるところも、兄妹そっくりだ」
 それは誉め言葉として受け取っておこう。
「ありがとう、かの子。俺はこの世界が終わっても、君をこよなく愛しているよ」
「あんた、それ地になりつつあるよな……。本気で彼氏が欲しいと思ってるのか?」
 この問い掛けにはもちろん、うなずいておこう。そうしておけば、かの子も
きっと本気で、他の男を好きになれる日がくるだろうから……。
「君も疑い深い人だね、本気だよ。俺でもいいという男を探すのさ。だから、
別れたくないって泣きついてきても知らないよ、仔鹿ちゃん」
 まぁ、君は泣きつくなんて、死んでもしないだろう。今だって、マフィアの
ボスみたいに、イスにふんぞり返っている始末だ。
「せいぜい頑張れよ。しっかし、そうなるとファンの子達が最大の障害だな」
「ああ、俺なんかより、生身の男の方がずっと刺激的で楽しいと思うん……」
 途中で言葉を切ったのは、全身に鳥肌が立つような殺気を覚えたからだ。か
の子は人のトレイまで奪って、二重にした即席の盾を顔の前にかかげている。
さすがだ。
 ガラリッ。
 唐突に食堂の入口が開いた。と思った瞬間、数十人の生徒達がなだれ込んで
きた。皆、《星の王子様》ファンクラブメンバーの子達だ。
「そんなことありませんっ! 私はずっと《星の王子様》一筋ですからっ」
「牛丼がお好きでも、私はずっとついていきます! ミスマッチさが素敵です!」
「何よ、あんた、ぬけがけする気!?」
「みっ皆さぁん、早く部活の準備を始めてくださぁい……」
 副部会長が必死に声を張り上げている。
 ここまで、まとまりのない子達なのに、敵(かの子)相手だと一丸となれる
あたりが不思議でならないよ。
「あと数年は、こんな楽しい毎日が続くのか……」
 つぶやけば、かの子がご愁傷様と笑みを返してくれた。だから、俺は奴のア
ゴをつかんで熱烈なキスをするふりをしてあげたのだ。
 まぁ、俺に感謝するんだね。これで今日は落ち込んでいる暇なんかないだろう?
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◇連載小説 <自由への白き翼> 第8回       作:流河 晶
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 ほどなくノックがあり、母が入室して来ると同時に、イナンナは飛び起きた。
「──お母様、お返事が来たのね?」
「ええ。もっと遅くなるかと思ったのだけれど、お許しが出たわ。公式なもの
ではないので、普段着で構わないと……でも、見苦しくない程度には支度をし
なくてはね」
「はい」
 小間使いの少女に手伝ってもらい、彼女は素早く身支度をする。
 合間に軽い食事が運ばれてきたが、手をつける気にはなれなかった。

 そうして彼女達は、取り急ぎファイディー国の王宮に向かった。
 馬車が門前に着くと、すでに連絡が届いていたと見えて、すぐに開門の許可
が出た。
 王宮の中庭を通り、馬車はついに城の前に到着する。
 取次ぎに出てきた女官に案内されて、二人は壮麗なエントランスホールに
入っていった。

 イナンナが初めて見る、華麗を極めた城内。しかし彼女には、それを眺める
余裕もない。
「……大丈夫? イナンナ、顔色が悪いわ」
「えっ、平気よ、お母様。……ちょっと緊張はしているけれど」
 小声で会話を交わしながら、大理石の回廊を進み、二人はようやくファイデ
ィー国王の私室に通された。

「お目通りをお許しいただきまして……」
「陛下には、ご機嫌麗(うるわ)しゅう……」
「よいよい、これは非公式な席。堅苦しいあいさつは抜きで、率直に話し合お
うではないか」
 正式なあいさつをしかけるメリアとイナンナをさえぎり、ファイディー国王
は言った。

 青い宝石のような瞳、暗い髪に戴(いただ)く略式の王冠。眉間と口の周囲に、
くっきりと刻まれたしわが、国王として長年担(にな)ってきた重責を感じさせ
る、壮年の男。
 それが現ファイディー国王、ベオウルフ・イグレイン・メイラ・ファイデ
ィーズ・レックスIV世だった。

「はい、陛下」
「お言葉に甘えさせていただきます……」
 イナンナとメリアは、おずおずと顔を上げた。
「それでよい。さ、そこに掛けなさい、二人とも。
 手紙は読んだ。……どうもわたしは性急に過ぎたようだな……。王子からも
そう言われたのだが」
「王子様が?」
 やわらかいソファに腰掛けながら、メリアが尋ねた。

「そうだ」
 国王はうなずき、イナンナに顔を向けた。
「王子は、自分の口からそなたに直接、王妃にしたいと申し込むつもりで
おったそうだ……それをわたしが独断専行してしまったゆえ、伯爵家からも
このように問い合わせが来ることになったのだと、王子はいたく立腹して
おっての」
「そうだったのですか……でも、わたしは……」
 言いかけた少女の言葉を阻(はば)み、王は続けた。
「それも分かっておる。
 いきなりこんな話を持ち込めば、そなたが断るであろうと。
 それゆえ王子は、ゆるりと交際を始めたかったのだそうだが。まこと、王子
の申した通りになったようだな」

「その通りでございます」
 イナンナは、ここぞとばかり自分の意見を述べることにした。
「こんなことを申し上げては、怒られてしまうかもしれませんけれど、わたし
は、たとえどんなに王子様がわたしを気に入って下さろうと、王妃になる気は
ありません」
 きっぱりと彼女が言ってのけると、メリアは青くなった。
「こ──これ、イナンナ。無礼なことを……!」

 しかし国王は腹を立てた様子もなく、話を促した。
「構わぬ、メリア。イナンナ、続けるがよい」
「はい。王子様とわたしとでは、まったく釣り合いが取れないと思います。
 きっと王子様は、がっかりなさると思いますわ……わたしは、おしとやか
でも、女らしくもありませんし、
 それに本当は、貴族のように暮らしたくはないんです。今だって、伯爵家の
中でさえもすごく窮屈に思っているくらいですもの」

 王は首をかしげた。
「ふむう……変わった娘だのぉ。通常ならば、王妃になれると聞けば、母娘
共々喜ぶと思うのだが……」
「ですから、わたしは王子様にはそぐわないんです。このお話は、なかった
ことにして下さいませ、陛下」
「むむ、せめて、王子と付き合うてみてはくれぬかな?」
「……ごめんなさい、それも無理です」
 イナンナは頭を下げた。
「わたし、貴族の男の方とは話が合わないんです。
 今までパーティで、たくさん男の方ともお話してきましたけど、価値観が
違い過ぎて、何を話していいのかさえまったくわかりませんでしたし」

 取り付く島もない彼女の態度に、さすがの国王も顔をしかめ、気を悪くした
ようだった。口調も自然ときつくなる。
「なんと、情の強(こわ)い娘だ。わたしがその気になったら、そなたの曾祖母
や、そこにおる母親を罰することもできるのだぞ」
「そんな……」

「お待ち下さい、陛下」
そのとき、娘に話を任せていたメリアが、割り込んできた。
「ご立腹は当然のことながら、年端も行かぬ子供の言葉でございます、どうぞ
お許しを。
 それに、……第一王妃様のこともございます、やはりすべては、社交界での
お披露目が済みまして後のお話ということにしていただきたく……」

 途端に国王の顔色が変わる。
「──なんじゃと。何ゆえ王妃のことをそなたが知っておる……いや、宮廷
スズメ共の噂話など間に受けるでないぞ、メリア」
 しかしメリアはひるまず、まっすぐに国王を見返した。
「失礼ながら、単なる噂などではないことを、わたくしはよく存じ上げており
ます。
 お披露目が済む前に妃にと望まれた第一王妃様は、人々の妬みを買い……
あげく何者かの細工により落馬、一生お子様に恵まれないお体になられて
しまわれたと……」

「──やめよと申しておる!」
 王は顔を紅潮(こうちょう)させたが、メリアはまったく臆(おく)した風も
なかった。
「わたくしは、イナンナをそういう目に遭わせたくないのです。
 いくら陛下のご威光が優れておられようとも、人の心すべてを従えることは
不可能だということを、ご賢明なあなた様のこと、すでにご承知と拝察致しま
すわ」
「むむむ……」

 ファイディー国王は言葉に詰まった。
 事実は、彼女の言った通りだったからだ。
 しかも、その後、娶(めと)った第二王妃も第三王妃にも、女児しか生まれな
かった。
 証拠は何もなかったが、またも何者かの呪詛(じゅそ)だろうと、宮廷の人々
は噂した。
 そうした中、ようやく侍女との間に生まれたのが現在十七歳になる第一王子
で、そのため目に入れても痛くないほど、王はこの息子を可愛がっていたのだが……。

「……相分かった。こたびの話はなしとしよう」
「本当ですか!」
 イナンナは眼を輝かせた。
「──ただし」
「え……」
 ぬか喜びに終わるのかと身を硬くする少女を横目で見ながら、王は言葉を
継いだ。

「来年、そなたが十五の誕生日を迎えたなら、王子が正式に交際を申し込む。
 そのときは是非とも受けてもらうぞ……無論、付き合ってみてどうしても
駄目だとなったら、その折には無理強いはせぬ。
 ……これでどうだろうな、イナンナ、メリア」
「……分かりました……」
「承知いたしました」
 時の権力者にそうまで譲歩されては、彼女達も同意するより外になかった。

「よかったわね、イナンナ。陛下が分かってくださって」
「……ええ」
 母の言葉にうなずきながら、イナンナは覚悟を決めていた。

(──ここを出よう。やっぱりここはわたしの居場所じゃないわ。
 このお屋敷はまるで牢屋みたいで……わたしがいるべき場所じゃない……。
 エグベルトとヘイガーに打ち明けてからは、ずっと考えないようにしてきた
わ……ここにはひいお祖母様も、お母様も、彼らもいる……大人になるまでは
……もっと件の腕を上げてから……そう思って我慢してきたけれど、やっぱり、
わたしは……。
 ……そう、わたしが本当に欲しいものは……!)

 馬車に揺られながら、もはや彼女の眼はどこも見てはおらず、母親の声も耳
に届いていなかった。
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