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┗━━┛            2006年02月04日号 通巻 165号 ┗━━┛
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 初めましてのかたは、初めまして。そうでない方は、お待たせ致しました。
 自称「文芸同人誌」主婦と創作の発行人・銀凰恵です。

 さて、今週号から流河晶さまご復帰です。
 神光寺かをりはもうちょっとだけお休みします。
 では今週の作品をどうぞ。
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◇本日の目次…
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 ▲オススメメールマガジン&HP紹介 
 ◆連載小説…くまの 王子的日常 第2回
 ◆連載小説…流河 晶 自由への白き翼 第7回
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◇オススメメールマガジン&HP紹介
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◇王子的日常 第二回                   作:くまの
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◆2◆
「――カァーットォですぅ!!」
 甲高い声がかかり、室内全体にピンと張り詰めていた空気が和らいでいく。
食堂の二箇所に配置されていたカメラ係の演劇部員が、肩を下ろしたのが見えた。
「《星の王子様》、とってもよかったですぅ」
 かの子の真後ろの席で声が上がる。直後、青白い顔の女生徒がこちらを振り
向いた。
「今日の分の撮り直しはナシですぅ」
 彼女は演劇部兼《星の王子様》ファンクラブの副部会長だ。
 保科部会長は弟の見舞いに行っているから、今日の現場責任者は彼女なのだ。
「そうかい? 途中、何度かセリフを噛んだよ。もう一度、やり直そうか?」
 黙っているのも卑怯な気がしたので、俺はミスを自己申告した。
 特に保科部会長の弟、理君の箇所は皆に真相がバレると厄介な事この上ない。
そういえば、あの子の出演交渉は上手くいっているんだろうか?
「いえ〜、その方が自然な会話っぽくて素敵ですぅ! かの子さんもラストの
セリフが、インパクト大でしたぁ」
「そう、ならよかったよ」
 どうしてか名前は覚えられないけど、いい子だ。俺のファンは面白……いや、
とてもいい子が多くて嬉しいことだ。
「では、これで失礼しますぅ。今日は三時まで貸し切ってますから、ごゆっく
りお食事をなさってくださ〜い」
 副部会長は頭をぺこりと下げると、
「エキストラの皆さ〜ん、ご協力ありがとうございましたぁ。出口で演劇部特
製《星の王子様》トレカをもらって帰ってくださ〜い。一人一枚ですぅ」
 甲高い声で生徒達の追い出しにかかる。
 学食を埋め尽くしていた生徒達は、ボランティアのエキストラだ。CM撮影
が終われば、仕事は終わり。友人同士で連れ立って席を立つと、雑談をしなが
ら学食を出て行った。
「ふぅ、これでやっと本当の昼が食べられるよ。やれやれだな……」
 俺は席に着くと、あっという間に空になった食堂を見回す。気のせいか、室
温が三度は下がった気がする。
「嬉しくて仕方ないくせに……」
 かの子が恨みがましい口ぶりなのは、牛丼が一杯しか食べられなかったせい
だろう。撮影に使われる消えモノしか部費で落ちないから、追加注文は当然、
自腹ということになる。
「まあね。お祭り騒ぎは今だけだから、十分に楽しんでおくさ」
 俺はすっかり冷めてしまったアメリカンクラブサンドにかぶりつく。そうい
えば……どのあたりがアメリカンなのか、今度、誰かに訊いてみよう。
「そうかねぇ? あんた、海女付属の女子大に行くつもりなんだよな?」
 さっきまでのお嬢様口調はどこへやら。かの子は底意地の悪いにやにや笑い
を顔に貼り付けている。
 悔しいが、さっきよりずっと魅力的に見える。
「……だから、何だい?」
 海藤女子高等学校付属の海藤女子大学には演劇部がある。映画監督やプロの
俳優が講師として招かれているので、そんじょそこらの俳優養成所にひけは取
らないという。
「さて、ここで問題です。《星の王子様》の正式なファンクラブメンバーは何
部でしょう? 1、演劇部 2、演劇部 3、演劇部」
「…………うぐっ」
 咽喉に詰まりかけたアメリカンクラブサンドを、グレープフルーツジュース
で一気に流し込む。その間(かん)に、バジルとチキンのサンドはかの子の胃
袋におさまっている。
 付属の女子大に進む生徒は年々、少なくなっていると個人面談では聞いた。
先の就職まで考えると、苦労をしても外の大学を受験する方が……。という話
をしても、
「わかってんだろ? コアなファンに世間の常識は通用しないって」
 かの子のにやにや笑いは止まらない。
「つまりだ、君が言いたいことは……高校を卒業したところで、俺の生活環境
は変わらないということか?」
「ピンポーン。あんたはしばらく彼氏ができないでしょう」
「天気予報のお姉さんか、君は……」
 確かに、男がわんさか集まる絶好の機会ですら、俺はナンパされることに失
敗している。それは認めなければならないな。
「かの子、どうして俺には彼氏ができないと思う? 理想が高いわけではない
んだけどな……」
 はっきり言ってしまえば、生物学的上、男なら外見や性格にこだわりはない
のだ。女性経験や国籍だって問わない。
 本音を言えば、三毛猫のオスでもいいくらいだ。
「そりゃあ、普通に考えればわかるって。あたしが男だったら、自分よりイケ
メンと付き合いたいとは思わん」
「イケメンか……」
 そう言われると、やっぱり頬がゆるんでしまう。
「その笑い方、本当に要(かなめ)さんにそっくりだな」
「当たり前だ、兄妹なんだから」
 男女の差こそあれ、基本的な顔立ちは双方、恐ろしいくらい母親に似ている。
三つ年上の自慢の兄は、青年になる少年の姿のまま、この世界から消えたか
ら……なおさらにそう感じるのかもしれない。
「嘘を言うんじゃないぞ、このナルシスト。毎朝、鏡の前で立ち振る舞いの練
習してるくせに」
「それは去年までの話だ」
 にやりと唇を引き上げたのを見て、俺はカマをかけられたのだと気がつく。
まったく、この人には敵わない。
 俺は美少年と評判だった兄さんをモデルにして、この《星の王子様》像を作
り上げた。だから、自分に注がれるファンからの熱い眼差しは本来、江端要の
ものなのだ。
「そういえば、今日は要さんの三回目のアノ日だな……」
 あまりにもさらりと言うものだから、聞き逃すところだった。
「……覚えていたのかい?」
「当然。付き合った期間は一月だけど、あたしは要さんの最後のカノジョだか
らな。単なる妹やお隣りさんとは違う」
 意外にボリュームのある胸をそらせると、鼻を鳴らした。
「そのわりに、牛丼を食べるんだな」
「こんなの嫌がらせに決まってるだろう。今日は朝飯も牛丼だ。晩飯もあんた
のおごりで牛丼にするんだ」
「なるほど……ね」
 まるで可愛げのない発言だが、長い付き合いの俺には、言葉の裏に隠された
意味もしっかりわかる。
 つまり、今日くらいは誰かに八つ当たりしたいくらい辛いと、そういうわけ
だな。かの子の殺気に近い気配を感じているせいで、腰の辺りがじんじんする。
 三年は長いようで短い。短いようで長いよ、兄さん……。
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◇連載小説 <自由への白き翼> 第7回       作:流河 晶
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 それからイナンナは、母と共にカミーニに赴(おもむ)いた。
 別邸は、思っていたよりもずっといいところで、村にいたときほどではない
ものの、彼女は気持ちが安らぐのを感じた。

 しばらくして、ドルーシア侯爵夫人が見舞いに訪れた。屋敷に来た当初、
正直、この曾祖母のことを少し苦手に思っていたイナンナも、自分のことを
真剣に心配してくれる彼女に少しずつ心を開いていき、徐々に口が利けるよう
になっていった。

 そして一年半後、窮屈な生活に戻りたくないという思いは完全には消せなか
ったものの、彼女は屋敷に帰ってきたのだった……。
 今はまだ子供だから仕方がない。でも、大人になったらここを出て行こう。
 馬車で伯爵家の門をくぐりながら、そう彼女はつぶやいていた。

 なぜこれほど、自由にあこがれるのか、どうして貴族の生活を楽しめない
のか……何も不満はないはずだった、明日の食事や寝るところの心配もなく、
歌ったり踊ったり、笑ったりしているだけで、豊かな生活をしていけるのに。
 彼女には説明ができなかった。貧困のどん底にあえいでいる人々から見れば、
天国のような暮らしを捨て、大切な母と曾祖母から離れて、どうなるという
のか。
 しかしそれでも、自由を求める強烈な衝動を、今もって彼女は抑えきれずに
いた。

「わたしは、一つところにいられないみたいなの……ここにいれば、何不自由
なく暮らせるのに、どうしてなのかしら……。
 きっと、あなた達には分からないわね、わたしにだってよく分からないんだ
もの……。
 でも、風が呼ぶのよ……わたしを……。こうやっていないと、今にも心が体
を離れて、飛んでいきそうなの……」
 イナンナはぎゅっと自分を抱きしめた。

 エグベルトは深くうなずいた。
「……僕には少し、分かる気がします。
 でも、戻って来て下さって、本当によかったとも思います」
「ホントです、よかったです、飛んで行かないで下さい!」
 ヘイガーも叫んだ。
「そうね。ヘイガーだけじゃなく、エグベルトとも会えたんだもの。それに、
大人になるまでは、ここにいるから大丈夫よ」
 イナンナはにっこりした。
 二人の少年にはそれが、女神の微笑みのように思えた。

「……それに、色々考えたんだけど、わたしやっぱり、剣士になりたいの。
 剣術の腕を磨くために、世界中を回れればどんなにいいか……ああ、その
ために自由になりたいのかもしれないわ! 貴族の女性には、そんなこと、
絶対許されないもの!」
 彼女はうれしそうに、ぱんと手をたたいた。
「だから、さ、お稽古(けいこ)しましょう、エグベルト」

 エグベルトは我に返った。
「あ、そうですね、で、では……」
「お、俺、また見張りします!」
 ヘイガーも慌てて、木によじ登り始める。
「気をつけてね、ヘイガー」
「は、はははい!」
 幾分上ずった声で答え、庭師の少年は木の上に姿を消した。


         *        *        *


 それから一年が過ぎ、もはや自分が教えることはなくなったとエグベルト
が感じ始めていた、そんな折。
 国王からの使者が、彼らのささやかな幸せを打ち砕いたのだった。

 目覚めたとき、イナンナは決心していた。
「お母様。わたし、国王陛下にお会いしてくるわ」
 枕元で心配そうに自分を看(み)てくれていた母親に、彼女はそう告げた。
「えっ?」

「陛下にお会いして、お断り申し上げてくるの。わたしはお妃にふさわしく
ありません、って」
 その言葉に、メリアはさっと顔色を変えた。
「何を言うの、イナンナ。そんなことをしたら……」
「我がままかもしれないけれど、わたし、これ以上窮屈なところへ行ったら
今度こそ死んでしまうかもしれないわ。
 それに王子様だって、わたしみたいなじゃじゃ馬、お妃にされてもがっかり
なさるだけよ」
 イナンナはこれ以上ないほど真剣に言った。
「そんなことを言ったって、お前……」
「止めないで、お母様」

 彼女が重ねて言うと、母親はうなずいた。
「分かったわ。でもちょっとお待ちなさい。わたしも一緒に行きます」
「──えっ……!?」
 今度はイナンナが驚く番だった。
「まずは公爵様に事情をお知らせして、それから……」
メリアはきびきびとした動作で机の引き出しを開け、伯爵家の紋章が型押し
された、便箋(びんせん)を取り出した。

「そ…そんなの、待っていられないわ、わたし一人で行くから」
「ダメよ、ここは村ではないと、何度言ったら分かるの」
 起き上がろうとする彼女を、母親は押し留めた。
「でも……」
「でもも何もないわ。ちゃんと手続きを経てからでないと、陛下にはお目通り
がかなわないのよ。
 無茶なことをしたら、お前だけでなくお祖母様にまでご迷惑がかかることを、
よくわきまえなくては」
「……はい」

 うなだれるイナンナの前で、メリアはさらさらと手紙をつづっていく。書き
終えるとガラス瓶の砂を振りかけ、余分なインクを吸わせて瓶に戻し、伯爵家
の紋章入封筒に入れて閉じ目に封蝋(ふうろう)を垂らす。最後に、紋章指輪を
押し付けて型押しする。
 それを繰り返し、厳重に封をした手紙が二通できあがると、彼女は卓上ベル
を鳴らして執事を呼んだ。

「お呼びでございますか、若奥様」
「こちらの手紙を公爵様へ。そしてこちらは、ちゃんと使者を立てて王宮の、
国王陛下の許に……急いでね」
「かしこまりました」
 うやうやしく手紙を受け取った執事は礼をして、部屋を出て行った。

「さ、あとは休みなさい、イナンナ」
「でも……」
「多分、陛下にお目通りがかなうのは明日以降になると思うし、もし今日でも
よいとお返事が来たら、すぐに起こしてあげるから」
「はい、お母様……」

 イナンナは言われた通りに眼を閉じたが、眠ることなどできるはずもない。
 幾度も寝返りを繰り返し、明け方近くになってやっとうとうとしかけた彼女
は、廊下を走り回る人々の気配で眼が覚めた。
 外はもう、日も高くなっていた。

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