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 では今週の作品をどうぞ。
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◇本日の目次…
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 ▲オススメメルマガ&HP紹介
 ◆連載小説…くまの 文化祭うぉーず
 ◆連載小説…流河 晶 魔法学院に潜むもの
 ◆連載小説…神光寺かをり フツウな日々。
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◇連載小説 文化祭うぉーず 第7回             作:くまの
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 《星の王子様》、逐電(ちくでん)。
 この知らせを聞いてすっ飛んできた吉田象は、巨体に似合わないキュートな
声を発した。
「王子サン、なして失踪なんぞ…………」
「理科子、他に何か変わったことはなかった?」
 入口でぬりかべと化した吉田象の背後から、エリ姉の苛立った声が聞こえて
くる。かなり迷ったけど、《星の王子様》本人が一番、変わっていたというコ
メントは控えることにした。その代わりに――。
『《星の王子様》のケータイに間違い電話を装った(と思われる)謎の電話が
あった』
 というボクの発言とほぼ同時に、嵐のような電子音が耳に届く。エリ姉が猛
烈な勢いでケータイナンバーをプッシュし始めたらしい。
「《星の王子様》のケータイナンバーはトップシークレットで、かの君のご家
族とご親友と私と副部会長しか知らないのよ。あとは、前の部会長に副部会長……
一部の父兄のファンに……」
 トップシークレットのわりには……結構、広まってるような気がするのは、
ボクだけか?
「なしてだか…………」
 吉田象はその場でかがみこんでしまった。ちょっと通行の邪魔だよね。
「……誰も鳴らしてないわね」
 各方面に連絡を取り終わったエリ姉の声はガラガラだ。その不愉快極まりな
い声がボクの第六感を刺激した!
 待てよ、トップシークレットのケータイナンバーを知っていて、FCの内情
に通じている者で、足が綺麗な女生徒といえば……。
「一連の犯人は部会長、あなただ!」
 エリ姉の膝小僧にぴしっと人指し指を当てた、次の瞬間、銀色のケータイ本
体がボクの脳天を直撃する。美麗に結った花魁髷は崩れなかったけど、プラス
チック製の簪(かんざし)が二本ばかりパキリと折れた。 ボクは夜明けの花
魁から、足抜け失敗ボコられ遊女に格下げだ。
「今朝、バイク男と密談をしていたじゃないか……ぅう」
「あんたの愚かさに免じて、さっきの失言と今の暴言は許すけど、次はFC除
籍よ」
 ドスの効いた声で言われても、ボクはFCメンバーでも何でもないからね。
あまり堪えなかったけど、吉田象が上げた奇声からして、とんでもなく厳しい
処分らしい。
「――それで? 理科子、その男女の特徴を簡潔に報告しなさい」
「バイク男は赤いつなぎを着たフルフェイス。女生徒は女王様みたいな雰囲気
で、エリ姉よりふくらはぎがシシャモだった」
「ふん。とすると、女の方は《暁の姫君》ね」
 じゃあ、大男の方は《暁の姫君》の彼氏だろうか?
 あんなところで何やってたんだ?
 それ以前に、卒業生が制服姿で校内をうろついてること自体、サイコじゃな
いか?
「そもそも、部会長がジュリエットをやれば、敵も怖がって手を出さなかった
んじゃ……」
 そこまでホラーな人々に対抗できるのは、冷血般若のエリ姉しかいないだろ
う。
「バカタレ! 演劇部の舞台演出と《星の王子様》の警護にゲリラ対策、FC
の統制、すべて私の肩にかかっているの。そんな暇はないわ!」
 エリ姉はストラップの端を握り締めて、ケータイを八の字に振り回している。
やっぱり、スピッツな誰かさんに瓜二つである。
「わたすがちーとも相手役にふさわしくないから、王子サンは消えてしまった
んだべ!」
 この吉田象の涙が呼び水となって、
「吉田は楓なんて雅な名前より、ヤツデがお似合いなのよ!」
「そうよ! 演劇部より、女子プロ愛好会に入会すればよかったのよ!」
 状況を静観していた部員達から、口々に非難の声が上がる。
 端役すら与えられなかった自分達を差し置いて、『質実剛健』というだけで
ヒロインに選ばれたのが気に入らないんだろう。うん、その気持ちはわかるけ
ど。
 しかし、吉田象追い出し運動にも反対派はいた。
「よしちゃんのお陰で、あたし達は大怪我をせずに済んだのよ!」
 元ジュリエット候補達が、にわかに《よしちゃん後援会》を結成し、彼女の
援護に回る。
 これはマズイとボクは日頃の平和主義を発揮して、
「みなさん、ちょっと落ちついてお茶でも飲んでください。部長なんだから、
エリ姉も何とかしてよ」
 顔面を引きつらせながらエリ姉の袖をつかんでも、
「部会長よ。部員のケアは副部会長に頼んでちょうだい」
 と、にべもない。頼みの副部会長さんはというと、
「あらあらぁ、ど〜しましょうかぁ?」
 《吉田象追い出し隊》と《よしちゃん後援会》の間で、泣き笑いを浮かべた
ままだ。彼女はしばらく、二つの団体を交互にながめていたけど、ふとした拍
子に首の筋を違えて保健室に行ってしまった……。
 エリ姉は指で耳栓をして一人考え込み、吉田象は号泣、部員達はヒステリッ
クに叫び合う。女は三人寄ると姦(かしま)しいんだそうだ。
 その計算でいくと、この部屋の騒音はジェット機が飛び交う成田空港にも負
けないだろう。 だから、演劇部の部室は防音設備がカンペキなのか?
 ……ボクにどーしろっていうんだよ。
 自慢じゃないけど、ボクはヒス耐性があるだけだ。嵐が通り過ぎるのをじっ
とガマンする性質のもので、ヒスを沈静化するような能力は持ちえていないの
だ。嗚呼、本当に自慢じゃないな。
 部室全体が阿鼻叫喚(あびきょうかん)の地獄の様相を呈しているなか、
「セリフ回しの稽古してたんだ」
 江端王子はひょっこり戻ってきた。舞台衣装を身につけていたせいもあって、
ボクの目には彼女が本物の星からの使者みたいに輝いて見えた。
 何せ、たった『ごめん』の一言で、部室が元の静寂を取り戻したんだから。
「《星の王子様》、今まで、どこにいらしていたんですか?
 間違い電話はどなたからでしたか?」
 矢つぎ早に詰問するエリ姉に、舞台前の緊張をほぐしたかったんだ、と言っ
て江端王子は頭を下げた。こうなると、さすがの我が姉もそれ以上の追及はで
きない。
「……幕が上がるまで、この部屋からお出になりませんように」
「わかったよ、部会長。心配をかけてすまないね」
 彼女は部員達から離れると、部屋の隅で化粧を始めた。周りの視線を避ける
ように終始うつむきがちで、様子もおかしかった。たまに口許がゆるむのも挙
動不審――いや、情緒不安定な(普段、安定しているかアヤシイけど)彼女の
心をあらわしているようで、ボクは少し心配になった。
 もしかして、愛ノラ猫誘拐のことを知ってるんじゃないかな?
  別の脅迫状が、江端王子の私物に紛れ込んでいる可能性だってないワケじゃ
ないし。この人、無駄に感受性が強そうだから、第六感も馬鹿にできないぞ。
 ハラハラして見守るボクをよそに、江端王子は『ロミジュリ』の第三幕まで
を華麗にこなした。ハムレットのあまりの凛々しさに卒倒する女生徒と母親が
続出である。館内の観客達の吐息に色がついていたら真っピンクってところだ。
フラッシュもバンバンたかれた。吉田象も威風堂々たるジュリエットで場内を
沸かせた。
 誰が見ても大成功の舞台初日になるはずだったのに……。
 再び、《星の王子様》は失踪――いや、脱走しちゃったのである。
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◇連載小説 <魔法学院に潜むもの> 第5回        作:流河 晶
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 魔物は、凄まじい勢いで先行する魔法使い達に肉迫する。
(──ヤバイ、このままじゃ二人が食われちまうっ!)
 セエレは焦り、辺りを見回し、棒切れが眼に留まると素早くそれを拾い上げ、
走りながらかざした。
「そいつはたしか、光に弱いんだ! これに火をつけて! 早く!」

 彼はさらにスピードを上げたが、少年の足よりも怪物の移動速度の方が、
格段に早かった。
 モンスターは、たやすくサムスとダイを追い抜き、進路をふさぐと、声なき
雄たけびを上げて周囲の空気を鳴動させる。
 「──ダメだ、間に合わない──!」
 セエレは、次に起こる惨劇を想像し、思わず顔を覆った。

 しかし。
「これこれ、くすぐったいよ、イムザク」
「よ〜しよし、わかったわかった。落ち着けって、イムザク」
 聞こえてきたのは、引き裂かれ、食われていく魔法使い達の絶叫などでは
なく、笑いを含んだ明るい声だった。

「え……?」
 急いで眼を開けた少年は、自分の眼を疑った。
 怪物は二人を食うどころか、まるで久しぶりに主人と会った犬でもあるかの
ように彼らを猛烈に歓迎し、そしてサムスとダイは、ペットが全身で表す喜び
に苦笑しながら付き合ってやっている飼い主、といった風情(ふぜい)でいた
のだ。

「あ──あれ? なん──で?
 そいつにはもう、かなりの泥棒が食われちまってるって聞いたのに!」
(……それともあれって、生徒が居残らないようにってでっち上げた、作り話
だったのか……??)
 彼が頭をひねっている間にも、魔法使い達はまったく恐れる様子もなく、
怪物と親しげにじゃれあっていた。

「では、そろそろ私達は行くからね、イムザク」
「んじゃー、まったなー、元気でいろよー」
 束の間、飼い犬ならぬ飼いモンスターとの触れ合いを楽しんだ後、彼らは
優しく魔物の頭に触れて、別れを告げた。

 イムザクと呼ばれた魔物は、名残惜しげに二人の後をついて来る。
「──こら、ついて来るんじゃねー、イムザク!
 お前は、ここで大人しく番してろ!」
 ダイに命じられると、怪物は悲しげに声なき叫びを上げ、それでも彼の言葉
に従って、大人しくその場に留まった。

 そして、魔法使い達は、まだ面食らっているセエレをしりめに、素早く移動
を再開したのだった。
「──セエレ! どうしたのだね、行くよ!」
 遠くから響くいてくるサムスの声に、少年は我に返った。
「え──あ、お、置いてかないでくれよぉー!」

(……”決して人には馴れない怪物”…たしかに先生達は、そう言ってた。
 それを、どうやって手なずけたんだ……?
 いや、それより、なんで名前まで知ってるんだろう、僕らだって知らない
のに……?)
 疑問は頭の中で山のようにふくらんでいったが、それを尋ねるヒマもなく、
彼はひたすら、謎の二人に追いすがった。

 そのまま魔法使い達は、まったく迷うそぶりも見せず、風のように魔法学院
の奥へと歩み入って行く。
 長い廊下をいくつも抜け、数々の角を曲がり、さらに階段をも昇り降りし…
…迷路のような学院内を巡って、ようやく彼らは目的地に着いた。

「──すげえ、もう学院長室だ。
 生徒だって、迷うヤツがいっぱいいるのに!
 ……なぁ、どうして、こんなに色々知ってるんだ? 
 まるで来たことが──わ、ヤバイ!」
「む、お前達、何者だ! 名乗れ!」
 やっと一息つけると思った刹那(せつな)、三人は、学院の教師と鉢合わせ
してしまったのだ。
 とっさにセエレは、サムスの後ろに隠れた。

「不法侵入者か、何が目的だ!」
 杖を向ける教師に、サムスは無言のまま、懐から何かを取り出して見せた。
 キラリと光る、メダルのようなものをセエレの眼が捕らえた瞬間、教師は
杖を取り落とした。
「──た、大変失礼致しました!
 が、学院長は中におります、どうぞお入りくださいませ!」
 教師は落とした杖には目もくれず、片膝をつくとうやうやしく頭を下げた。

 またもやセエレは、あっけに取られてしまっていた。
 魔法使いにとっては、杖は命の次に大切な物のはずだった。杖という、魔力
の焦点となるものがなければ、魔法を使うのが極端に難しくなるのだから。
 そのため、生徒達は『自分の杖は絶対手放すな』と厳しく教え込まれていた。
 なのに、目の前の教師は……。

「あ…あんた、いったい何者なんだ!?」
 彼がたまりかねて叫んだとき、目前のドアが開き、男が一人、顔を出した。
「何の騒ぎだね、これは?」 
 深い緑のローブを着込み、白髪交じりの頭髪は短く、眉間にはくっきりと
二本、深い縦じわが刻み込まれている。

 セエレは、はっと息を呑んだ。
 使い込んだ樫の杖をこちらに向け、油断なく周囲を見回すその顔に見覚えが
あったのだ。
「は、学院長、実は……」
 言いかける教師の声が耳に入った様子もなく、男の眼は、黒いローブを身に
まとったサムスに吸いつけられていた。

「……こ、この”気”……もしやあなたは、”賢者”サマエル殿では!?」
「賢者サマエルだって……!?」
 セエレの青い眼が、真ん丸く見開かれた。

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◇連載小説 フツウな日々 第44回             作:くまの
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「人間の脳みそには便利で大切な機能があるんだ。それは忘れるって事」
 龍は渇いた口を半開きにして、シィお兄さんの横顔を見つめた。
 忘れ物をしたり、約束を忘れたり、憶えたはずの漢字を書取テストの直前に
忘れちゃったりすると、大人も子供も怒るのに、その「忘れる」ことが大切な
ことだというお兄さんの言葉が、彼には理解出来なかった。
「ものすごく悲しかったこと、痛かったこと、怖かったこと。そういう辛かっ
たことをずっと憶えていると、何かの拍子にそれを思い出したとき……そのと
きには楽しかったり嬉しかったりしていても、急に悲しい気分や怖い気分にな
るかもしれない。そうなったら大変だよ。
 車を運転しているときに急に怖くなったら、心がドキドキしてブレーキやア
クセルを間違えて踏んでしまうかも知れない。
 料理や工作をしているときに急に辛くなったら、身体がこわばって刃物や道
具を落としたり間違ったスイッチを押しちゃったりするかも知れない。
 道路を歩いているときに急に悲しくなったら、涙で前が見えなくなって道の
真ん中でうずくまってしまうかも知れない」
 龍は目をぱちくりさせた。
 シィお兄さんの言っていることがさっぱりわからない。
 彼のぽかんと開いた口を横目で見たお兄さんは、軽いため息を鼻から吐き出
してから、別の例え方で話した。
「急に誰かの怒った声が聞こえたら、自分が叱られている訳でもないのに、身
体がびくっとしたり、持っていた物を落っことしたりしないかい?」
 目玉ぱちくり、口ぽかんのまま、龍は何度もうなずいた。
 お兄さんの言葉には、思い当たることがある。
 彼の父親がすごく大きな声で息子の名を呼ぶときは怒っているときで、そん
なときに叱られようものなら、パンツがびしょぬれになること請け合いに怖い。
 でも、怒っていなくても大きな声で呼びつけることがある。
 それはたとえば父親が『息子は自分から遠くに離れたと所にいる』と思い込
んでいるようなときだ。
 そう言うときの呼び声は、ものすごく怒っているときの声によく似ているも
のだから、実はすぐ近くにいたりする龍は、曲げた金定規が戻るみたいな勢い
で背筋と手足を伸ばし、そのまま硬直して動けなくなる。
 運が悪いとそのときに手にしていた物を落として壊したり、ホントに叱られ
たときと同じに小水をちびったりしてしまい、そのセイで本当に叱られてしま
うことだってある。
「それは君が、前に大きな声で叱られて怖かったと言うことを憶えているから
だよね」
 龍はいつだったか父親がお土産に買ってきた張り子の赤い牛みたいに何度も
うなずいた。
「それは、叱られたときとよく似たことが起きたから、怖いことを『思い出し
た』んだ。思い出すまでは『忘れて』いる。忘れている間は、怖くない。」
 シィお兄さんは正面の赤信号をじっと見たまま、優しい声で言った。龍は米
搗飛蝗みたいにうなずいた。
「だから忘れることは大切なことだ。いつでも何処でも怖いことを思い出して
しまうようじゃぁ、何をするのも怖くって何もできなくなってしまう」
 信号が青に変わり、お兄さんはアクセルを軽く踏んだ。車がゆっくりと動き
出す。そのゆっくりに合わせて、お兄さんもゆっくり話を続ける。
「人間の脳みそは、ものすごく辛いことやものすごく悲しいことを忘れたり、
思い出さずにいられるようにする能力を持っている。
 だからものすごく辛い思いをした人の中には、たまにだけどその辛いことを
全部忘れてしまう人もいる。
 大きな事故で大きな怪我をして、ものすごく痛がっているけれど意識はあっ
て、救急車の人とかお医者さんとかとしっかり会話をしていた人が、手術が終
わって目が覚めたら、何で自分が入院している理由が分からなくなったりするんだ」
「不思議」
 ちょっとだけ唾が出て、前よりは湿った龍の口の中から、一言だけ言葉が出た。
 シィお兄さんは小さくうなずいた。
「伯母さんも、そうだった。確かにとても悲しそうだったけれど、お坊さんや
お葬式に来てくれた人や、家族と普通に話しができた。お墓にお骨が入るまで
の間も、普通に起きて、普通にご飯を炊いて、普通にお掃除をして、普通に暮
らしていた。
 でも、小さな寅の小さなお骨がお墓の中に入ったその次の日、眠って起きた
伯母さんは、全部忘れていた。
 寅の納骨のこと、お線香をあげに来てくれた人のこと、お葬式のこと、病院
のこと、事故のこと。
 そして、寅が生まれたことも」

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