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-------◇テキスト系創作メールマガジン 文芸同人「主婦と創作」◇-------
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---------------------------------------------- 2003年11月22日号 ----
------------------------------------------------------- 通巻64号 -----
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◇ご挨拶
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 初めましてのかたは、初めまして。
 そうでない方は、お寒うございます、お待たせしました。
 自称「文芸同人誌」主婦と創作の主幹、銀凰恵です。

 さてさて。
 今回は、神光寺かをりの「フツウな日々」がお休みです。ごめんなさい。
 それでは、今回の作品をどうぞ。
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◇本日の目次…
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 ◆連載小説…くまのサマ 小説「天狼戦記−華−」(2 第一話)
 
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◇連載小説 天狼戦記−華−                 作:くまの
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「柏木(かしわぎ)」
 玄関ホールに入ってきた青年は、頭上から声をかけられた。声の主はわかっ
ていた。吹き抜け階段を降りてくる美少女をまぶしそうに見上げ、
「一樹様はどちらに?」
 幾分、きつめに言葉を発した。本家の長兄である一樹が少女を出迎えるべき
だ、と言外に含ませてある。
「学校。どちらにせよ、今度の子の世話はあたしが一任されているの。そのせ
いで、学校を欠席することになったのよ」
 最後の数段を飛び降りると、桜子は柏木の前で足を止め、長い腕を組み、胸
をそらせる。
 こんな仕草さえも、魅力的にうつるほど桜子は美しい。見慣れている柏木で
すら一瞬、言葉を失った。
「それにしては、嬉しそうですが……」
「何よ! あら、どうしたの?」
 初めてその存在に気づいた、という風に、柏木の腕の中の少女を見やる。
「理由は存じませんが、乗車を拒絶なされましたのでお眠りいただきました」
「あら、殴りつけたの?」
 《氷水鏡》ですべて知ってはいても、面白そうに瞳を輝かせる。無邪気で残
酷な仔猫のように、桜子の表情は次々と変化する。
「いえ、一応、薬を用意しておりました。それよりも、またおふざけをなさい
ましたね」
「当たり前よ、歓迎の儀式だもの。ルール違反だけど、無傷でこの玄関までた
どり着いたのはこの子が初めてじゃない」
「小道に《呪糸(じゅし)》をおかけになった。あれは、ひどいなさりようで
す」
 柏木の声音から、気安い親しみの色が消える。
 《呪糸》は通常、従使が獲物を捕らえるときに使う霊的なトラップの一つだ。
霊糸(れいし)と呼ばれる蔓草が進入者の手足にからみつき、すべての動きを
封じて逃がさない。
 もちろん、人狼も使用できる初歩的な術だ。
 つまり、桜子は物質的にも霊的にも招かざる客に対して、トラップを仕掛け
ていたのだ。
 柏木の与えられた仕事は、無事に佐野六花(さの りつか)をこの屋敷につ
れてくることだ。いくら次期当主候補の桜子といえ、妨害は許されることでは
ない。
 彼にとって、現当主である《檜主(かいじゅ)》の命令は絶対なのだ。
「あのくらいの危険を察知できない子が、この家で暮らしていけるとは思えな
いわ」
「しかし……お目覚めになりましたか」
 柏木は言葉を止め、柔和な表情を顔に張りつけた。
 もともと、柏木の使った薬は副作用を避けるため、効果が薄いものだった。
六花は軽く目をしばたかせると、自分のおかれている状況を把握したのだろう、
一気に赤面した。
「お降りになられますか?」
 六花はちぎれんばかりに、首を縦に振った。
「あたしはこの家の長女、神楽桜子よ」
 普段以上の威圧感を身にまとった桜子が、六花の顔を注視する。柏木もつら
れ、少女に視線を向ける。見れば見るほど、目ばかり大きい貧相な黒テンを思
わせる。
「……………………」
 桜子を前にして世辞にしろ、感嘆の声にしろ、一言も発しない者は初めてだっ
た。
 反応を待つ桜子を前に、および腰の六花は柏木の顔を見上げている。小動物
が本能的に味方をかぎ分けるようだ、と柏木は感心していた。
 だが、それもわずかな間だ。
「あなた、失礼じゃないの」
 彼女の瞳に危険な光が走るのを見て、すぐさま柏木は助け船を出した。
「六花様は事故のショックで、一時的な失語症なのです」
* * *
 ごく一般家庭に育った六花にとって、神楽家の印象は、広大の一言だった。
 屋敷自体は、屋上付き三階建ての古いレンガ造り洋館で、使用人用に二階建
ての別棟があるという一般的金持ちの域にある。
 だが、神楽家が所有する土地は、この屋敷から視界に入る山々すべてだとい
う。
 そうでなければ、自分のような孤児を引き取ろうという酔狂な人物はいない
だろう、と六花は思った。
 山深くに建てられているため麓からの道はただ一つで、それ以外は濃い緑の
針葉樹林が周囲を取り囲んでいる。まるで、要塞だ。
 結局、一通り屋敷内を案内されたものの、六花の頭に入ったのは、二階の右
側の廊下、奥から二番目にある自室と食堂の位置だけだ。
「隣りがあたしの部屋なのよ。必要なことは、執事の柏木に聞くといいわ」
 六花の部屋に荷物を置かせると、桜子はすぐに廊下に出て前を歩いてゆく。
どうしたらいいのかと、おろおろする六花に、
「ついて来なさい」
 振り向きもせずに言った。
 これだけの広さに使用人がいないのだろうか。静まりかえった館内に、二人
の足音だけが響く。
「今日は通いの者には、休みをとらせてあるのよ。念のためにね」
「……………」
 六花は心の中を見透かされたような気分になった。この美少女には、そんな
神秘的な雰囲気がある。
 いったん屋外に出て、二人は館を取り囲むように配置された小道を歩く。
 桜子は途中で立ち止まると、館の何の変哲もないレンガの壁を片手で押した。
かすかな音をたてて、奥に引っ込んだレンガの一部は、どういう仕組みか元に
戻ったときには小さな鍵穴があった。巧妙に隠された細工扉らしい。
 やはり無言のまま、桜子は胸ポケットから出した銀の鍵を当然のように差し
込む。
「さあ、入って」
 扉の内側は古書独特の匂いと、カビ臭い空気がこもった書斎だった。部屋を
埋め尽くす書架、壁にかけられた様々な動物の剥製と油彩画、タペストリーが
神楽家の歴史を物語っている。
「今日一日だけ、この書斎に入る許可をお祖父様に代わって私があなたにあげ
る。これは、ここに来る子達、みんなに与えられた権利なのよ。ほとんどの書
籍はドイツ語と英語だけど、翻訳もあるから好きなように読んでいいわ」
 桜子の唇の両端が、笑みの形につり上がる。
「──読めるならね」
「……………」
「そうね、お祖父様から言われているから、少しだけ講釈してあげる」
 そう言うと、薄くほこりの積もった重厚な造りの机に腰かける。六花は扉の
脇に立ったまま、桜子の均整のとれた身体を眺めていた。
「人間の祖先は猿だと言われているけど、あたし達は、またそこから枝分かれ
した人種。狼が祖先だといわれているでしょう。日本狼や大陸狼とは、もちろ
ん違う進化を遂げたわけよね」
 この人は何を言っているのだろう。それでも、桜子の目から視線がはずせな
い。
 私は普通の家の子だから、わからないけれど……。
 きっと、どこの名家にもいわれがあるのだろう。この家に引き取られる以上
は、きちんと頭の中に入れておかなければならないのかもしれない。
 六花は素直に納得したが、桜子の話す内容は常軌を逸脱しているように思わ
れた。
 関西では有名な財閥の西陣家、中部地方を拠点とする呉家、もう血の途絶え
た志摩家の血族と共に神楽家が、狼の血を受け継ぐ種族であるというのだ。
 桜子は『暗い炎に炙(あぶ)られた女達』という、陰鬱な題材の油彩画を指
差し、
「あたしのような直系は、変性することができるのよ。だからこそ、ヨーロッ
パに散らばっていたあたし達の外戚は、魔女狩りと異端審問の標的になってし
まったというわけよ。ふふっ、大陸狼が悪魔の化身とでも? 領土を侵食して
きたのは人間の方なのに?」
 ──魔女? 異端審問? へんしょう、変性?
 小首をかしげる六花に、あきれたように桜子は吐息をもらす。
「あなた本当に、神楽家の傍流の末端なのね。何も知らないで、ここへ来たの?
 変性っていうのは……そうね、周りにある本を読みなさい」
 言い捨てると、しなやかな足どりで六花の前を通り過ぎる。
「そうそう。ひとつ、忠告してあげる。夜は部屋の扉をロックしておくことね」
 ――扉は閉められた。
                                 続く
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│「シベリア抑留はなぜ起きたか?」もうすぐ連載が始まります!

│‥この時点でスターリンは日本人捕虜のシベリア抑留を考えていなかった

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│・日本の捕虜の中から、極東およびシベリアでの労働に肉体的に適している
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│わずか一週間の間に、スターリンはなぜ変節したのか?

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