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-------◇テキスト系創作メールマガジン 文芸同人「主婦と創作」◇-------
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---------------------------------------------- 2003年10月19日号 ----
--------------------------------------------------- 臨時お詫び号 -----
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◇ご挨拶
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 お騒がせ致しております。
 自称「文芸同人誌」主婦と創作の主幹、銀凰@お間抜けサンです。
 昨日発送致しました通巻59号におきまして、編集上のミスにより、くまの様
の「星眼の巫女」を間違えて、原稿の途中から掲載してしまいました。

 くまの様並びに読者各位に多大なご迷惑をおかけ致し巻いたことをここに深
くお詫び申し上げます。

 と、いう訳で今度こそ正しく掲載致します。
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◇連載小説 星眼の巫女                   作:くまの
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 ──ローダット! またしても、妾がそなたを滅してしまうというのか?
 女神が魂切るように叫んでいる。激しく慟哭し、この世界すべての息とし生
けるものに呪詛を撒き散らしている。
 実留(みとめ)を中心に集まり始めた暗黒色のガスは、残り少なくなってい
た人間達を敵も味方も区別なく覆い隠していった。しばらくすれば、肉と骨を
溶かし始める。
 この獲物に飽けば、手近な新緑の山々の色を失わせ、七つの海や川にまで触
手を伸ばし、世界中を覆い尽くすことだろう。
 終わりだ、この世界の終焉を自分は見ているのだ、と実留は思いながら、女
神の嘆きを止めようとはしなかった。
 なぜなら、彼女の目の前で同レベルの巨大な力が動き始めたからだ。分子ク
ラスまで砕けたかけらが寄り集まり、女神達を封じるため、再びラート像は元
に戻ろうとしている。
 こうして、世界の安全は守られているのに、私達はそのなかに含まれていな
いのね……可愛そうなアンナ。
 心ない人ならば、たかが仔猫一匹のことだと失笑するかもしれない。実留だ
とて道理のわからない幼子ではない。女神の心理的な影響があるとはいえ、こ
こまで自分が取り乱すことに自分でも動揺していた。
 ――――――――ぐうおぉぉぉっ。
 とうとう、女神が腹の底からの叫びを上げた。破邪の剣をアンナの身から引
き抜き、憤怒にまかせ中空にあるラート像に斬りかかった。一閃の後、細かく
砕けた土器が地上に降ってくる。
 だが、破片はそれ自体が意思を持つかのように、また集まり始めた。女神は
肩で息を吐く。地面に剣を突き立てた後、まだ温かい小さな亡骸を抱きしめた。
 そうして、実留は思い出す。長い長い刻のなか、共に歩んできたかけがえの
ない魂の友のことを。
 アシュウム女神とローダット女神が蘇るたび、憎みあい殺しあってしまうよ
うに、その巫女たる魂を持つ自分達もまた、同じ過ちを繰り返してきたのだ。
 アンナ……私の友達……私の妻…………私の可愛い娘…………私の最愛の人。
 どんな時代にあっても、どの場所にあっても、いつもアンナの魂は実留の魂
のそばにあった。そして、結果はいつも同じ。実留の魂がアンナの魂を殺す。
 なぜなら、それが、終わりない殺し合いが女神達に課せられた永遠の定めだ
から……。
 ――何故に人間は妾を目覚めさせたのじゃ? あのまま、ローダットと共に
混沌の海で眠ることを望んでおったものを……。
 血のたぎるような怒りが波のようにうねり、咽喉元までこみ上げてくるが、
二人の感情はやがて深い喪失感へと変わる。
 ローダット女神が宿す神力は、バクターシア王国の口伝通り、星眼の女神像
に素直に封じられたわけではない。
 アシュウム女神の神力を宿す破邪の剣により、彼女の神力は幾千ものかけら
となった上で、ラート像に封じられていた。なゆたの刻をかけて神力を修復し
て彼女は、また復活を待つ。
 アンナの魂も同じだ。生き物は死んでも、幾度となく別の肉体に宿り生を繰
り返すことができる。そうやって、女神の器となってきた。
 だが、今度はそうもいかない。あまりの破壊の衝撃に、小さな魂は修復不可
能なほど粉々になってしまっただろう。
 女神は自らの聖眼をえぐり、アンナのヒビ割れた聖眼に融解させたが、心臓
の鼓動は蘇らない。実留が首から下げていたラディーカの治癒力では、元より
遠く及ばない。
「…………私はどうしたらいいの?」
 助けを求めた先に、答えはなかった。ただ、どす黒い霧が辺りにただよって
いた。
 私はどうしたら……違う、私はどうしたいの?
 アンナを蘇らせるのは無理だとしても、散り散りになった魂のかけらを集め
る。
 ――それは容易いことじゃ、しかし……。
 躊躇する女神の真意が、我が事のように実留の心に染み込んでくる。魂を復
活させ、輪廻の輪に戻ったとしても、結果はいつも同じではないか。
 どうすれば、いいの?
 血がにじむほど、実留はきつく唇をかみしめる。
 ――妾が滅すればよいのじゃ。その衝撃でそなたも死すれど、属性の同じ破
邪の剣ならば魂が散ることもなかろう。
 おお、このときのためにローダットは邪眼を己が身にはめ込み、妾の神力を
そいでおいてくれたのじゃな。そうでなければ、このような愚策は思い浮かば
ぬわ。
 実留は死んでも転生が可能だが、女神は……。
 ――愛しい子よ、迷うでない。それほどの刻は我らに残されてはいないのだ
から……。
 実留の左手が空を袈裟懸けにした。手刀が生んだ突風はよどんだ黒い霧を払
うと、これまで自分と共にあった人々の姿を表出させた。
 カイ、シーシャ、マヤカはよくできた人形のように、爆風に倒れたままの姿
勢で静止している。衣類は見事に焼け焦げているが、皆、大きな外傷はなさそ
うで安心した。
 ――バクターシアの民を一人、選ぶがよい。
 実留はこの場にあるのが不思議なくらい優雅な男を指さした。「シーシャさ
んを」
 ――では、その者を神話を語る者とする。
 緊縛を解かれたとたん、ばね仕掛けのように背後に飛び退り、身構えた青年
に女神は拍手を贈る。誇り高い最高の戦士への褒美だった。
「…………実留さん?」
 構えをとき、青年がこちらに一歩踏み出しかけたとき、その声が屋上であっ
た廃墟に響き渡った。
『妾は破壊と殺戮の女神アシュウム。そなたはこれから行う儀式を見届け、寸
部の狂いなく後世に伝えよ』
 シーシャは実留の高圧的な口調を聞くと、すぐに姿勢を正し、膝をついた。
「シーシャ・クレイバーン、身にあまる光栄に存じます」
『妾はラート像が復元し封じられる前に、破邪の剣で自ら滅する。さすれば、
この邪眼の巫女は死すれど、再び聖眼の巫女とまみえることにはならぬ。ロー
ダットはラート像で静かな眠りを得ることができるのじゃ』
「それでは、アシュウム女神様は……」
『妾はよい、もう戦いは飽いた。もはや、何が戦いの火種であったか思い出せ
ぬほど昔から、ローダットと殺しあってきたのじゃ……………………シーシャ
さん』
「実留さん、ですね」
 はい、とうなずいた拍子にシーシャの碧の瞳と実留の瞳がぶつかる。先に視
線をそらせたのは、青年の方だった。
「私を選んでいただいたのは賢明ですね。カイ様やマヤカ殿ならば、あなたを
お止めするでしょうから」
 実留の計画を耳にしても、初めて逢ったときと同じ微笑みを浮かべて青年は
言葉をつむぐ。
 実留もそう考えた。彼ならば、いかなるときも冷静に最善の途を選び取るだ
ろうから。そして、それが国師としての任務だから。
「本当にごめんなさい。カイやマヤカちゃんにお礼を頼めますか?」
 涙をこぼさず言葉を発するのに、実留は予想以上に労力を要した。
「承知いたしました。私も覚悟を決めて、禁固刑でも降格処分でも受けましょ
う」
「一度、バクターシアに行きたかったです。今度はもっと美人で素直な女の子
に生まれ変わって……」
 あなたのそばにいられたら……。
 最後の方は言葉にせず、心の奥底に大切にしまっておくことにした。生まれ
て初めて、実留の胸に芽生えた淡い想いは、額を飾る宝石と同じ価値を持って
いたから。
「実留さんは私が存じている王宮の姫君のどなたよりも、素敵な女性です」
「ありがとうございます」
 実留は笑顔で礼をいい、中空に復元しつつあるラート像を見上げた。
 ――もう、妾はその檻には入らぬ。
「私は私とアンナの王国を守るわ。あなたにもう邪魔はさせない」
 怒ったようにつぶくやくと、二人はシーシャに背中を向けた。アンナが横た
わる場所に戻るためだ。
 傷跡も生々しい右手一本で、実留は地面に生えた破邪の剣を引き抜く。合図
も何も必要なかった。二人は破邪の剣を逆手に持ち返ると、額の紅玉を突いた。

 確かに邪眼は砕けた。
 しかし、滅したはずのアシュウム女神と死出の旅に向かったはずの実留は、
まだそこにあった。大いなる何者かによって、二人は護られていた。
 ――神界への途が開かれたのです、女神アシュウム。貴女の邪眼も罪も滅し
たのです。
 空洞であるはずのラート像から乳白色の陽炎が立ち昇り、この場を温かい空
気で満たしていた。
『その御声は女神ラート』
 アシュウム女神は、実留の身体を離れ具現化していた。金糸銀糸に彩られた
妖しくも美しい装束に身を包んだ彼女は、波打つ髪も濡れた瞳も最高級の紅玉
色だった。
 ――女神ローダットと聖眼の巫女の魂も主神の御手により、そこに。
 聞きなれた仔猫の声に、実留は振り返った。たどたどしい足取りのアンナが、
こちらに向かってくる。実留は待ちきれず、駆け寄って抱き上げた。ローダッ
ト女神の神力を宿していない証拠に、アンナの瞳は実留の想い人と同じ深緑に
変色していた。
『ローダット……妾を許しておくれ』
『姉様……私達の愚かな争いのために、かけがえのない命がいくつ失われたこ
とでしょう』
 姉神に謝罪をしたローダット女神は、全身が七色に輝く本来の美貌を取り戻
していた。長い睫毛をしばたかせ、己の罪を心から悔いている様子が実留の胸
に迫ってくる。
 ――神力を使い果たした貴女方は主神の御手により、一つ神となりましょう。
迎えはそこに。
 その言葉を最後に、役目を終えたラート像は消滅した。
『妾を恨んではおらぬか?』
 陽炎の赤い女神は、殊勝な言葉を口の端に乗せた。全身で否定する実留へい
とおしげに目をやると、次いでシーシャに視線を移した。
『そなたの願いは承知しておる。バクターシア王国に妾とローダットの加護は
なくなろうが、他の神々は健在じゃ』
『実留、アンナ、二人に心からの感謝を』
 二人の女神の周囲を幾筋もの光が渦巻いていく。光の本流に飲み込まれ、彼
女達の姿もまた輝く紅と青の粒子に変わっていった。光の竜巻はそのまま、天
空に昇っていく。
 地上に残された二人と一匹は、熱で浮かされたように、いつまでもいつまで
も空を仰いでいた。眠りから覚めた凛々しい王子とその義妹が、すべてを知っ
て怒り狂い、従者に拳を振り上げるまで……。
                                 続く
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